シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
あえて言い訳するのなら――
それよりも先に優先すべきことがあったんだ。
まさか本人が来るとは思っていなかったんだ。
判っている。
完全に僕の判断ミスだ。
どんな状況にあっても全てを把握して迅速に対処し、不測の事態に備えるだけの気を回さねばならなかったんだ。
目先に訪れたその衝撃にばかり気をとられすぎて、後回しにしたものが"過去"に積み上がって放置されたまま。
ああ――
「何を…ぐだぐだしてた」
深い藍色の瞳に過ぎるのは、殺気にも似た憤怒の光。
「時間を疎かにしたお前に、罰則(ペナルティ)だ」
それは刃のように鋭くて、空気を一瞬にして凍らせる威力があり、僕は痛めつけられるのを覚悟してぐっと身構えた。
しかし氷皇は、その圧倒的な力を僕の身体に向けるのではなく、
「"10日で1割"の利息を、"時間"で換算する。10時間で1割。計算は1時間単位」
………。
「え……」
僕の精神にダメージを与えて来たんだ。
それは氷皇という人柄をよく知る者達から見れば、甘すぎる措置かもしれないけれど…僕にとっては、発作が起きてしまいそうな程の直接攻撃で。
金額が…金額だから。
くつくつ、くつくつ。
氷皇から…悪徳悪魔の笑い声が漏れてくる。
日割りじゃなくて…時間…。
過ぎゆく1分1秒が…僕のお金になるんだ。
ほっぺより…懐が痛い…。
くらり。
「しっかりしろ、師匠。師匠、師匠? あ…戻って来た。とりあえず、それは置いておいて…置いておけないかもしれないけど、強制的にあっちへぽいっ。いいかい、師匠。ぽいっ。ぽいだからね、ぽいっ」
由香ちゃんが、並行した両手を仰ぐように何度も斜めに向けた。
それを目にした僕も、その動きを追うように頭を動かして。
「ぽい…ぽいできないけど…今は…ぽい…。ぽい…」
僕は暗示のように言い聞かせ、滲む視界の中、唇を噛んで頷いた。
自業自得だとはいえ、心が挫けそうだ。
「お前はいい弟子を持っているなあ、玲。お前ののたうち回る姿を見ようと思っていたが、心を切り換えられたとは残念だ。もっと…金利を上げようか。よし、今日の5時から…15分ごとに1割だ。無論、それまでの利息は加算される」
「!!!!」
15分…1割増!!!!
「あ、ああ……」
挫けかけた心が、修復不可能にまで木っ端微塵に砕け散りそうだ。