理由なんてない

私の前に現れた

ピンポーン!

私は重い足取りで、玄関に向かう。
今日は、午後から学校だって言うのに。
朝の6時に起きてしまった。
いつもおばあちゃんに、起こしてもらっている時間に起きてしまった。
でも、起きてしまうと自覚する。
もう、おばあちゃんはいないんだって。
朝から仏壇の前で、泣きっぱなしだ。
今が何時なのかさえ、分からない。
私は泣きはらした目で、玄関を開いた。
そこに、立っていたのは男の子だった。
私と同じ学校の制服を着ていた。
名札の色から言って、私と同学年だろう。
……こんな子いったけ?
男の子は私を抱きしめながら、言った。
「もう、僕をおいてどこにもいかないでくれ。これからはずっと一緒だ。瑠璃子」
とても愛おしそうに、私を優しく抱きしめる男の子。
……は?
なにを言ってるの?
私はあなたなんか、知らないんだけど?
てか、なんでこいつは私を抱きしめてるの?
私はその男の子を、突き飛ばして言った。
「あんた、誰?私は瑠璃子じゃなくて、『瑠璃』……瑠璃子は私のお母さんの名前だけど、お母さんの知り合いかなにか?」
私は自分で言って、疑問に思った。
……待てよ。
お母さんが死んだのは、15年前。
私と同じ16歳ってことは、お母さんと知り合うことなんか、ないってことか。
…じゃあ、この男の子は誰なの?
私は男の子を下から上まで見た。
「何を言ってるんだ瑠璃子?僕だよ。真だよ?」
男のコは悲しそうな顔をして言った。
私はもう1度、その『真』という男の子を見た。
が。
やはりこんな子に、見覚えはない。
「私、あなたなんか知らない……」
真という男の子は、スクール鞄から、古びた手帳を取り出して、私にわたした。
「これは瑠璃子が、僕の前から消えたときにの残していったものだ。これを見れば、なにか思い出さないか?……と、言っても。かんじんの鍵が無いんだけどね」
私はその手帳の表紙を、指先でなぞってみた。
表紙には椿の花が描かれている。
……この椿の絵。
どこかで見たことが、ある気がする。
「……あ!」
思い出した。
私は男の子を玄関においたまま、おばあちゃんの部屋に走って行った。
そして机の引き出しを開いた。
……あった。
私が見つけたのは、箱だった。
その箱の表には、手帳と同じ、椿の花が描かれていた。
おばあちゃんはよく1人で、この箱を手にとっては、悲しそうにこの箱を眺めていた。
どんなに、見してほしいと頼んでも、これだけは見してもらえなかった。
私は、恐る恐る箱を開いた。
箱の中にあったのは、可愛らしい小さな鍵と、手紙が1通入っていた。
私は手紙を開いた。
【瑠璃へ。】
私は心臓の音が、速くなるのを感じながら、手紙を読み進めた。
【大きくなりましたか?元気ですか?こんな手紙を残すことを許してください。あなたがこの手紙を、読んでいるということは『真』があなとのところに、来たというですね。そしてあなたが、1人になってしまったという、ことですね。真はあなたのことを、私と間違えているでしょう?あなたと過ごした1年間。あなたが成長していくのを見て、あなたがどんどん私に似ていくのを感じました。だからこれを残します。真があなたを見つけたとき、とてもやくにたちます。そして、約束してください。真があなたのところに来たら、一緒にいてやってください。一緒に暮らしてやってください。そして、もしあなたのことを私と勘違いしていたら、そのままにしてください。真がちゃんと、理解ができるようになるまで、決して真実を話さないでください。勝手だと思うでしょうが、許してください。そして最後になってしまたったけど。私はあなたが、愛おしくてたまりません。あなたをおいて、死んでしまうことが、とても無念でたまりません。どんなことになろうと、忘れないでください。『お母さんは、瑠璃が大好きです』母より。】
最後の『大好きです』のところには、涙のあとが残っていた。
お母さんは最後まで、私を思って泣いてくれたんだ。
私はどこかで、考えていた。
私をおいていったお母さんが憎い、と。
私とお母さんが一緒にいた時間は、私が1歳のときまで。
私は、お母さんに愛された記憶がない。
それもそのはずだ。
1歳のときの記憶なんて、あるわけない。
私はとても心配だった。
お母さんは私のことを、好きでいてくれたかどうか、が。
私を産まなかったら、お母さんは死ぬことはなかった。
私を産んだことを、後悔していないかっただろうかと。
でも安心した。
お母さんは、死ぬまで私のことを思っていてくれだんだ。
それが、とても嬉しい。
……でも。
なんで?
なんで、お母さんが『真』とか言う、男の子と知り合いなの?
なんで?
なんで、私が『真』とか言う、男の子と一緒に暮らさなくてはいけないの?
理解ができないよ。
私は手紙をたたんで、鍵を手にした。
そして、手帳の錠に鍵を差し込んで、回した。
カチャッと言う、音をたてて手帳は開いた。



< 2 / 9 >

この作品をシェア

pagetop