碧い月夜の夢
【5】
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 真夜中近くになり、凛々子は実家の方に向かって車を走らせていた。

 降り続く雨の中、暫くドライブをしていると、車は見慣れた町並みの中に入っていく。

 車を停めたのは、ある公園の前だった。

 あの事件以来、一歩も足を踏み入れていない公園。

 車のドアを閉めて、所々に外灯が設置してあるだけのそんなに大きくはない公園の中を、凛々子は傘も差さずに進んでいく。

 公園の中は静まりかえっていた。

 見渡すと、遊具の場所は、あの頃と何も変わっていない。

 ブランコも、滑り台も。

 小さい頃からよく、ここで遊んでいた。

 少しだけ懐かしさを感じながら、凛々子は公園の一番奥にある小さな立体迷路に近付いていった。

 ズキン、と、胸の奥が痛む。

 だが、こんなことで弱音を吐く気はない。

 大きく息を吸うと、ゆっくりと吐き出して。

 凛々子は、着ていた上着を脱いだ。

 その左腕の肩から肘のあたりにかけて、生々しい傷跡が残っている。

 凛々子が、真夏もずっと長袖を着ている理由。

 高校生でバスケの県選抜に選ばれた時も、半袖のユニフォームをどうしても着れなくて断った。

 あの事件で、左腕にこの傷を負ってから、まだ誰にも見せていない傷。

 サヤカにすら。

 でも、もう。



「もう逃げない…だって、助けてくれたもの」



 半分は自分に言い聞かせるように、凛々子は呟いた。

 激しい雨は、容赦なくタンクトップの凛々子の身体を打ちつける。

 それはまるで、行ってこいと激励されているみたいだった。

 凛々子は空に向かって、大声で叫ぶ。



「レオン!!」



 その途端、公園の景色が反転した。

 一瞬だけ物凄い風が吹き、凛々子は思わず目を閉じる。

 次に目を開けた時には、見たことのある風景の中にいた。

 ここは、テルラ。

 ゴツゴツした岩があちこちに転がっている、不毛の大地。

 レオンの生まれ故郷だ。

 さっきまで凛々子が立っていた公園も立体迷路も、何処にもない。

 脱ぎ捨てた上着も、無くなっていた。

 だが、そんなことには構わずに、凛々子は辺りを見回した。

 探すのは、レオンの姿。
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