碧い月夜の夢
 何処までも続く荒れ地。

 走っては立ち止まり、周りを見渡して。

 そしてまた走る。

 そう言えば、海に囲まれた狭い国に住んでいるから、こんなに広大な平地と地平線なんてモノを見るのは初めてだ。

 この広い土地でたった一人を探すのは、あまりにも効率が悪すぎる。

 息を切らせて立ち止まり、何かもっといい方法がないかと、凛々子は考えた。



「あ、そっか」



 一人で納得した様子で、凛々子はうん、と頷く。



「あたしがその気なら…」



 とん、と、地面を蹴る。

 凛々子の身体が、空に浮いた。

 中空に浮き上がり、神経を研ぎ澄ませる。

 直ぐにでも会いたいのは、レオン。

 会って、言いたい。



「あたしが、ここにいるから…!!」



 ぐいっと、身体が引き寄せられる感じがした。

 凛々子はそのまま、空を進む。

 ずっと先に見えてきたのは、一本の木だった。

 いつかレオンが砂浜に描いていた夢の設計図。

 玉虫色の丸い石が置いてあった場所。

 レオンはここを中心に、街を造ろうとしている。

 ーー…たった、1人で。

 凛々子は、その木に向かって進んだ。

 そこに、倒れているのは。



「レオン…!!」



 凛々子は地面に降り立つと、バランスを崩して前のめりになりながら、倒れているレオンに駆け寄った。

 意識があるのかないのか、ぐったりとして動かないレオンに、凛々子はそっと手を伸ばす。

 抱き起こすと、レオンは少し呻いてゆっくりと目を開けた。



「凛々子…? 夢、か…?」

「何言ってんのよ。現実よ」



 苦笑しながら、凛々子は言った。

 そして、ぎゅっとレオンを抱き締める。



「あたしはちゃんと、ここにいるよ…レオン…やっと会えた」



 いつだって、助けてくれたレオン。

 無事でいてくれて、本当に良かった。

 そう思ったら、凛々子の瞳に涙が浮かんだ。



「バカ、泣くなって」



 レオンは凛々子の髪の毛を撫でた。

 そして、ゆっくりと起き上がる。

 その姿はあちこち汚れていて、皮膚には少なからず切り傷や擦り傷がついていた。

 凛々子は、痛々しいその姿を見つめる。

 レオンはそんな凛々子の真正面に座ると、もう1度、確かめるように凛々子の頬に手を当てた。

 いつもはめているボロボロのグローブに、凛々子はそっと、自分の手を添えた。



「レオン…」

「大丈夫だよ。でも驚いたな。もう2度と、会えないと思ってた…」



 そう言うレオンの瞳は、優しい色に包まれていた。

 良かった、と、凛々子は思う。

 暫く会えなかったけど、ちゃんと、レオンだ。

 口は悪いけど、果てしなく優しい、勝ち気なレオン。
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