やさぐれ女の純情


ここは、咲樹が勤めている小さな会社の取引先、木材店だ。


取引先と言っても、実際は親会社に当たる。


咲樹の仕事は、この木材店が仕入、加工した材料を使い


〝いかに素晴らしい家具が造れるか〟


を世に知らしめること。


名刺の肩書きは、家具デザイナー兼、家具職人(一級建築士)なのだ。




美術系大学の建築科で学んでいた咲樹の目標は


〝自分の住む家を自分で建ててみたいなぁ~〟


から


〝自分の惚れた木材の良さを最大限活かしてなにかを造ってみたい〟


に、すんなりと移行していった。


もはやその時点で一級建築士の資格に興味は無くなったのだが、


「愚か者。一級をとれば給料が上がる。多くもらえる分、


より高価な木材が買えるようになるでしょーが」


と清久に言われ、咲樹はそれもそうかと


安易に一級の資格を取ろうと決意してしまったのだ。



最年少で取得した清久に遅れること二年。


その二年間、


地獄の日々と逃避行の日々を繰り返し、


ようやく家具デザイナー兼、家具職人に


(一級建築士)の肩書きを添えることができたのだ。


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