Trick or Treat!
Merry X'mas and Happy New Year!
 ……………

『今日は直帰します。(*^・^)チュ☆』

 ………………。

 彼からの確かにメールにはそう書いてあった。先日晴れて婚約者となった(恋人と言ったら『もっと進んでいる。なんなら今すぐ入籍するぞっ!』ってすごく不機嫌になったのよねぇ。)修也からメールだ。

『気をつけて帰ってね。』

 と、返信して帰宅の途に着く。電車とバスに揺られてドアツードアで小一時間の通勤時間。最近ハマっているスマフォのアプリで、今晩はなんのおかずにしようかと冷蔵庫の中身を思い出しながら、検索掛けてみたりして…。



 婚約したことは会社ではまだ公表していない。でも上川君と千歳本部長補佐と愛子ちゃんと…なぜか庄司君に飲みがてら報告した。聞くところによると庄司君は修也の同期で共に独身寮住まいのお隣さんで、しょっちゅうマージャンなどをして遊んでいるらしい。

 私がまだ公表したくないって言ったら、なんでだ!と問い詰められて、まさか『もし破談になったら…。』といまだ見え隠れする不安と、修也のファンの子による業務妨害(これが本当にあるんだなぁ。締め切りをぶっちぎられたり、違う書類を回されたり…。)を避けるためとも言えず、『ま、まだ現実味がなくって、ドキドキしてるの…。』と、嘘くさい事この上ない乙女な言葉を吐く羽目になった。

 私35歳なんですけど…orz

 まぁ、それに騙されてくれたかどうかは分からないけど、修也が『せめてこの人たちには報告したい。』と粘ったのが、補佐と庄司君と上川君で、それに私が休んでいる時フォローしてくれたり、いつも10歳も年上のおばさんを相手に楽しくおしゃべりしてくれる愛子ちゃんを加えて?み会を開いたわけ。
 状態を知らない愛子ちゃん以外はみんな山崎君がアプローチしていたのを知っていたようで、それだけでもそらもう羞恥プレイ全開なのに、さらに愛子ちゃんが、『え?ええ?えええーーーーーっ!?どういう事ですかっ』と、詰め寄り慣れ染めとかの暴露大会になってしまったわけです。

 補佐なんて『おおー、俺だと聞きづらい事を聞いてくれて助かるわぁ。』とか笑っているし、上川君は『これはもう香苗に報告しなければっ!』とスマフォでメモ取りやがり、庄司君は肩を震わせて笑いをこらえている。
 そしてこの超恥ずかしい状態の張本人である修也は、それは満面の笑みで私にしがみついて離れなかった。
もうやだぁ。おかあさん、泣きが入ってますっ!



 そして冒頭のメール。

 最近彼からこういうメールがよく届く。それを休憩中に確認していると愛子ちゃんにニヤニヤされるのが甚だ不本意なんだけど。それには確かに『直帰』とあった。『直帰』と。大事な事だから何回も繰り返します。『チョッキ』じゃなくて『直帰』。

 郵便物を確認して、団地の階段を上っていく。ヒールの音が響き渡る。はぁ…疲れる…。これから夕飯の準備だなぁ…などとため息をついて開錠して玄関を開けたら美味しそうな匂いと紳士用革靴が私を迎えた。リビングに移動すると芽衣が修也の膝の上に乗ってテレビゲームを興じている。

「あ、七海、おっかえり~。」
「おかえりーママ♪」
「なんでここにいるの?」
「え?だから直帰ってメールしたじゃん。」
「うん。だから寮に帰ってい…」
「俺、ここに帰っちゃまずいの?」

 ううっ!そんな捨てられた仔犬の様に首を傾げながら寂しげな目をするなーっ!

「ママ!ひどいっ!!修也パパがオムライス作ってくれたのにっっ!」
「はぁっ!?修也パパッ!?」
「俺、俺、俺の事。昔ディナーカフェでバイトしていたから、結構料理得意なんだ♪」

 俺俺ってどこの詐欺師よ…。相変わらず修也の膝の上にいる芽衣からの爆弾発言に、思いっきり口をあんぐりと開けてしまったら、さも当たり前のように彼が自分を指差した。よく見たら芽衣はもうパジャマを着ている。え?もう風呂入っていたの?

「い、いつの間に(色んな意味で)…orz」
「だってママと修也パパ結婚するんでしょ?じゃあパパになるじゃん。」
「芽衣、なんでそんなに物分かりがいいのよ…。」

 右手を額に当てて頭を抱えてしまった。

「さ、芽衣ちゃん。ママが帰ってきたからご飯にしよう?準備手伝ってくれる?」
「は~~い♪あ、ママ、私もう宿題とか終わっちゃったからね!プリントはそこに出しているからチェックしておいてね~♪」
「マジで?いつもは言われないと出さないのに…。」

 いつもは私が怒るまでやらない、というか、大概そういう事になるとの~~んびりしすぎて、やるべき事をやっていないで怒られる芽衣が、宿題とかを終わらせている、だ、と?

 しかも二人で台所に立っている姿がすごく自然だ。

 なんでここまで仲良しなの?頭の中がハテナマークで一杯になる。

 オムライスはまだ冷めていなかったみたいで、スープやサラダと共に見事に食卓を飾っている。ダイニングテーブルには私の横に修也、私の正面には芽衣という配置で座っている。

「はい。じゃあ頂きます。」

 修也が手を合わせると、芽衣もそれにあわせて大きな声で言う。私も「い、いただきます。」と後を追う。彼の作ったオムライスはハートマークのケチャップがあり(涙)、芽衣のには『LOVE』とか書いている。それを崩しながらスプーンを差し込むとなかはトロットロの卵液と共に美味しそうなケチャップライスが顔を出した。

「すごい…。おいし…。」
「お気に召したようで何より。」
「でもなんでここに?いや、駄目とか言うんじゃなくて…。」
「ん~~、今日さ、ちょっとふと思う事があったんで、相談しようと思って。」
「相談?」

 私がそう聞き返すと、彼がかばんからごそごそと何やらプリントアウトした紙を取りだした。

「どういう物件が好みかな、と。」
「物件?」
「俺達の家。」

 ンガググッ……っ!

 って私はサザエさんかいっ!思いっきり咽こんだら「ママ、大丈夫!?」と芽衣が水を持ってきてくれ、修也が背中をさすってくれた。

「い、い、いえーーーっ!?」
「Oh Yeah♪」

 この返しに思わず「あほかっ!」と拳骨を食らわせてしまったのは仕方ない事だと思う。


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