天神楽の鳴き声
この時ほど彼の焦った声を聞いたのは初めてだった。いつも感情のない声で呼ぶから。そして焦った顔でこちらに向かって走ってくる。

手先にじん、と熱を感じた。

よく見ると血がにじんでいる。頭の奥がくらっとした、そのまま視界は暗転する。体に強い衝撃を感じて、自分が倒れたことを自覚した。そしてゆっくりと意識を手放した。

遠くで責める声が聞こえた。熱に浮かされた頭では上手く回らなくて言葉を発することができない。春礼の側には透茉がいてひたすら頭を下げ謝っている。

庭の花に近づいてはいけないのは、毒性のある危険な花が植えてあるからだった。注意されていたのに、近づいたのは春礼のせいだった。謝罪を声に出すことができず、ごめんなさい、と心の中で透茉に謝った。

目が覚めて、体を起こすと隣には座りながら寝ている透茉がいた。
まつげが僅かに動いてこちらを見た。

「春礼さま!」
「あ…ごめんなさ…」
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