わらって、すきっていって。

本城くんの大会が近づいていた。彼は前にも増して練習漬けの毎日で、わたしは時々それを見に行ったりしていた。

やっぱりわたしは彼の走る姿が好きなんだと実感する。どれだけ見ていても飽きないんだもん。それどころかむしろ、どんどん好きになっていくんだ。おかしいな。



「――そういえば本城。今度の大会ってなんなわけ? 県? 地区?」

「全国」

「ぶっ。……はあっ!?」


1学期の終業式のあと。もうすっかり行きつけになったあのドーナツ屋で、ちーくんがメロンソーダを吐き出した。正確には、もう少しで吐き出しそうになっていた。

でも、それはえっちゃんとわたしも同じだ。


「あれ、言ってなかったっけ。陸上界隈ではちょっとした有名人なんだよ、俺」

「聞いてねえよ! ふざけんなよ!」

「はは、なんで怒られてんのか全然分かんねー」


本城くんはさわやかに笑っているけれど、正直ちーくんが怒る気持ちもちょっと分かってしまう。

だって、全国大会って。有名人って。それってつまり、本城くんはものすごい選手ってことでしょう?

そんなひとがこんなところで呑気にドーナツを頬張っていてもいいのだろうか。いや、いいわけがない。


「全国ってもうわけわかんねえな。つか陸上のことよく知らねんだけど、なに? マラソン的な?」

「俺は5000メインでやってる」

「へえ。タイムどんくらいなの?」

「調子いいときは13分台で走るよ」


5キロを13分。それってどれくらいすごい記録なのかな。普通はどれくらいで走るものなのかも、正直分からないや。

……わたし、結構なんにも知らないんだな、陸上のこと。

ああ、なんだか本城くんが雲の上の存在のように思えて仕方がない。
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