* * *


(いい手際だったな)


ユカ——いや、沙稀は、自分からは一切誘わなかった。

行く先々で偶然出会ったように装って、俺から声を掛けられるのを待ってたんだ。


俺が気づいたのは2回——自転車を倒したときと、ハンカチの売り場で見かけたとき——だったけど。

それ以外でも、きっと行く先々でうろちょろしていたに違いない。



決して自分からは積極的に近寄って来ない。

むしろ、うかうかしていたらすぐに手のひらからすり抜けていってしまいそうな危うい距離感を保ってた。

必死に追いかけないと、すぐに切れてしまいそうな。


(無邪気な女の子らしい外見からは想像だにできなかった。

ずいぶん計算して動いていたに違いない)


初めてお茶に誘ったとき、やたら褒めちぎられてすっかりいい気になったっけ。

普通の女の子がしないような経済の話題で不意を突かれて。

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