王子様とビジネス乙女!
迷惑な出逢い


始まりは何気なく立ち寄った図書館でのことだった。


その日は実にうららかな昼下がりで、絶好の外出日和だった。
学園の生徒達がいっせいに太陽の下に躍り出て心ゆくまで日光浴を楽しむ、そういう日だった。

この国の人間は暖かな日差しを何よりも愛してやまないのである。


そんな日に俺は不幸にも図書館に足を運んでいた。
課題のレポートが呪わしい。図書館にいた他の生徒も大半がそんな顔をしていた。

こんな日に好き好んで屋内に籠もりたがる奴がいるとすれば、そいつは余程の根暗か真性のマゾに違いないと俺は心中毒づいていた。


ところが――いたのだ、そういう人間か。


地味な女生徒だった。
貴族の子弟が通うこの学園の令嬢達は皆華やかなのに、珍しいくらい地味な生徒。

ゆるく垂らしたブラウンの髪と、野暮ったい黒縁の眼鏡。
禁欲的なブラウスが彼女を知的に見せていた。

窓越しの木漏れ日を浴びながら少女は本の世界に浸っていた。

ふんわりした三つ編みの先っぽが日の光を浴びて淡く輝いていて。

ひどく文学的な雰囲気を纏う彼女を俺はしばらく見つめていた。

取り立てて美人なわけでも魅力的な訳でもない。

ただ、少女が好む絵本のような光景に少しの間だけ見入ってしまっていた。



とるに足らない記憶だ。
3日も経てば忘れてしまうような。

そう、彼女とはそこで終わりの筈だった。



そこで終わっていれば――あの時見たのは恋物語に夢中な乙女などではないと、知ることもなかったと思う。


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