アドラーキャット


わけのわからないことを言った祐介くんはパチリ、と携帯の電源を切ると真面目な顔でこちらを向いた。



「じゃ、すいません先輩。」

ふーっと、自然な動作で祐介くんが近づいてくる。

え、は、え、と混乱した頭では言葉が上手くつなげない。

なにも、未経験なわけではない。
傑先輩とだって、事あるごとにやったことだ。
けどまさか、それを祐介くんからされるとは。

思考と共に身体も停止した。

祐介くんとの距離があと数cmもないというときになって。




ガチャ、とドアの開く音。


「ゆうすけー。用事って……」





凍る空気。




まだ、触れてはいなかった。
セーフだろう。
拒否出来なかったけど、うん、きっとセーフだ。
最低でもセウトくらいだろう。

ゆっくりと顔を上げると、呆然とした表情の荻野目くんがいた。

「じゃ、用事も済んだし俺帰ります。荻野目、鍋食べさせてもらったら?」

「……。」


なんてこともないように祐介くんは立ち上がり本当に帰ってしまった。


…………いやいやいや冗談じゃないよ‼

この空気どうすんの!?

荻野目くんの気持ちをどう修復すればいいの!?
だってあれだよ‼
告白してフられたのにその告白した相手が幼馴染とキス(未遂だけど)してたって‼
きっと今彼ものすごく傷ついているよ‼

その慰め役を私に押し付けるとか、祐介くん、貴様………




「と、とりあえず、荻野目くん、鍋食べる?」

「……。」




祐介くん明日あたりウンコでも踏めばいいのに。

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