Sion

本心は





スタジオでカリカリとシャーペンを走らす音が響く。
那由汰はんーっと唸ると、書いていたルーズリーフの紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。




あともう少し。
あともう少しなはずなのに、浮かばない。




曲はもうできた。あとは優愛と合わせて手直しするだけ。
そうだったはずなのに、直前になって何かが違うような気がした。




こんなことは初めてだった。
今まで調子良く曲を書いてきた。




なのに…行き詰まっている。
優愛のイメージで書いていたはずなのに、脳裏に希愛が浮かんでしまう。




っ!という苦しそうな那由汰の表情を優愛は遠くから見ていた。
数分前から優愛はスタジオに入った。
だが、まだなかの部屋には入れずにいた。




那由汰の表情を見ると、嫌な気持ちになる。
そんな思いを振り払いたかったのに、那由汰を見るたびに抱いてしまう。




那由汰は…最近おかしい。
それに気づいていた。湖季にも言うように頼んだ。




でも、那由汰は自覚していないようだ。
自覚していないのが一番辛い。




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