嘘付きな使用人

入学式ですわよ

学校に近付くにつれ3人の姿を見た生徒にヒソヒソ言われるようになっていた。

『何あの子…。
ブサイクな癖に潤様と直哉様と一緒だなんて…。』

『身の程知らずにも程があるわよね?』

「ブサイク言われたー。」

ケラケラ笑う清水に潤が申し訳なさそうに謝る。

「ごめんね彩ちゃん。
僕達が一緒だから…。」

直哉も気にしているのか浮かない表情である。

「てかさー悪口も丁寧だねー。」

「「は?」」

「いやー『悪口言いますわよ』みたいなー。」

「…さっぱり意味分かんねえ。」

「あっ、言葉遣いの事?
一応ここお金持ちの子息令嬢が多いからね。」

「なるほどー。」

「そう言えばこの学校だと女子は彩ちゃんみたいに普通の口調の子って珍しいかもね。」

「えー浮いちゃう感じー?」

「そこは分かんねえけど確かに珍しいわな。」

「まじか~。」

面倒くさそうに眉間に皺を寄せた後、清水はスッと背筋を伸ばした。
いつものダルそうな歩き方をやめゆったりと歩き始める。

「…何やってんだお前?」

雅人が訝しげに声をかけると清水がゆっくり振り返った。

「何の事でしょう?」

その声に一瞬聞き間違いかと混乱してしまう。
凛とした透き通った声。
令嬢が多いこの中でも一際淑やかな所作。
これではまるで…。

そんな直哉の表情を見てフワッと笑うと口を開いた。

「さあ、参りましょうか。
直哉様、潤様。」

これではまるで本当にお嬢様じゃないか。

『…お前何者だよ?』

『んー?
郷に入れば郷に従え。
お嬢様に混じればお嬢様になれー。
悪目立ちしたくないからねー。』

ある意味さっきより目立ってるよと言おうとして潤は口を噤んだ。
それまでに圧倒的なのだ。

本物のお嬢様の中で『偽物』の筈の彼女が放つオーラは本物以上だったのだ。

「…彩ちゃんって本当にお嬢様だったりしないよね?」

『んなわけないでしょー。
偽物よ偽物ー。』

クスクスと清水が笑う。
その動作さえ綺麗すぎてどぎまぎしてしまう。

『…偽物は得意なんだよ。』

潤は清水の口調が変わった事には気づかなかった。



「んでここがお前の席。
担任来るまでのんびり座っときゃ良いから。」

「ありがとうございます大村様。
お手間をかけさせてしまい申し訳ありませんでした。」

その言葉に直哉の腕には鳥肌が立っている。

『…お前その口調どうにかなんねえのかよキモい。』

『校内では永遠にこれで行くよー。
私も嫌だけどねー。』

トイレ行ってくるーと潤と直哉が行ってしまい清水はする事もなく窓の外を見た。

(暇だな…。)

「ねえあなた。」

(週刊〇春も取られちゃったわけだし。)

「ちょっと?聞いてるの?」

(ぽたぽた焼きもまたしかり。)

「あなたよ清水!!」

(これは頭の中でしりとりでもするか…。)

「いい加減にしなさいよ!!」

グイッと腕を掴まれようやく話しかけられている事に気がつく。

(えっ?誰?)

机の周りを女子7人に囲まれていた。
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