恋影
第三章






それから、数日後……、


白鳴はそれまで世話になった島原から、夜霧のように、静かに出て行った。


向かうは都の隅にあるという神社。


そこに武市がよく来るという情報を得ていた。


神社にたどり着くと、そこはしんと静まり返っていた。


人気もなく、風がヒンヤリとしていて気持ちがいい。なんとなく、昔感じた風と似ている感じがした。


すると、辺りの気配が変わる。


何かが背後から近いて来る。


スウッと伸びて来た手を振り払い、刀を構える。すると、相手もそれを予測していたのか、刀を抜いていた。


「……!」


赤い着物を着た厳つい顔の男…。


「お前、やっぱり浪士組の奴か!」


「えっ……?」


浪士組……?


それって………。


「さては師匠を追って!でやっー!!」


「!」



キンッ!!


刃が交わる。さすがに、男の力だけあって凄い力だ。


だが、ここで引き下がるわけにはいかない。なんとか切り抜けなければ…!


「うっ…!!」


重くのしかかる刀を、力いっぱい弾き返す。両者勢いで後方へと退く。


だが、刀を構えたまま、敵を反らすことはない。


男が再び地面を蹴り上げ、襲い掛かってくる。


「やめろ 【以蔵】。」


「……!」


別の男の声で、振り上げられた刀が、ピタリと止まる。


すると、神社の物陰から男達が出て来る。


「!」


細くたなびく髪を一つに結い上げ、青い着物に身を包んでいるその男こそが、長年白鳴が思い続けて来た人だ。



ーー武市半平太。



別れた時とは、かなり印象が違って見える。と、いうことは……、


「おう!また、喧嘩をしよんのか?以蔵!」


「……!」



ーー坂本龍馬。



「もう!以蔵君は気が短いから、困るッス!」


龍馬の後ろから来る人と、以蔵と呼ばれた人達と現れる。


彼は武市達の仲間だったのだ。


呆然と二人の姿を見ながら立ち尽くす白鳴。まさか、本当に会えるとは思ってもみなかった。


以蔵と呼ばれた男は、握っていた刀をしまう。


「……ほう、以蔵とやり合って無事とは大した女子じゃ!」


にこりと笑って白鳴の前に龍馬がやって来る。


変わらない……。


あの時と何も変わらない笑顔を向けてくる。


「おまん、名はなんと言うんじゃ?」


「…………。」


白鳴の前へ来て尋ねてくる龍馬。
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