かぐや皇子は地球で十五歳。
第6章 ゴールデンなウィーク。
 無事4月の学校生活を終え、7日間と長いゴールデンウィークへと突入。タダ飯食らいに引け目を感じ、柏木カフェの手伝いを始めて3日が経過。忙しい店内でクルクル目を回しているうちに、パンやケーキの名前は一通り覚えてしまった。バイト先の経営者であるメイドと執事には敬語禁止令を発令、これが功を奏し三人気兼ねなく自然体で過ごせるようになり、楽しい休日の始まりとなった。
 早朝に床をモップ掛け、テラスのテーブルやカウンターを拭き、焼き上がったパンと飾り付けの終わったケーキをショーケースに並べる頃、雅宗さんが目玉焼きの皿をカウンターに乗せた音を合図に、私達の朝食が始まる。

「ふわぁ~♪このクロワッサン、甘くてサクサクで最高…!アメリって天才!」
「ゆかりちゃん、お出掛け前に悪いんだけど病院に着替え持っていってくれない?」
「はーい!じゃあ後30分で出なくちゃ!あ、雅宗さん、お醤油とって!」
「どうぞ、ゆかり様。…………はっ!」
「はい、罰金。」
「この調子じゃ、一週間で温泉旅行行けるわね。」

 アメリが小躍りしながら罰金箱のクッキー缶を抱えて持ってくる。一敬語、百円。今のところ缶の重みは雅宗さんのお小遣いが八割を占めている。

「ゴホンッ……あまり遅くならないようにね、門限は4時。今日明日が危ないから。」
「わかってますよぅ。だから午前中に待ち合わせしたんです!」
「はいはい~、忙しい3時には手伝いに帰ってきてね~♪」
「アメリってば人使い荒い!」

 毎晩ビクビク怯えながら朝を待っているが、晃が刺傷されたあの日から死者は現れていない。平均出現頻度は2週間に一度というから、そろそろ頃合いなのだ。

「後はガトーフレジェとシューを出したら準備完了だから!それじゃ、いってきまーす!」
「すっかり店長さんだな、気を付けていってらっしゃい!」
「にゃおん。」

 二人と一匹に見送られながら、開店前のカフェを飛び出す。
 着替えを詰めた袋に昨夜アメリに教わって焼いたマドレーヌを3個ポロポロと忍ばせてきた。晃はフィナンシェよりもマドレーヌ派なのだ。

(晃……喜んでくれるかなぁ!)

 お気に入りのワンピースを翻し、軽快に病院のエレベーターへ飛び乗った。


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