それでも、愛していいですか。

背中が広い。

座っているが、背が高そうなのがわかった。

奈緒と加菜がそろそろと研究室に入ると、「どうぞ、座ってください」と言って、ようやく阿久津は振り向いた。

その顔を見た瞬間。

「あ」

奈緒は思わず声を漏らしてしまった。

目の前にいる准教授は、あの時、車から救ってくれたあの命の恩人だったのだ。

「どうしたの?」

「う、ううん。なんでもない」

動揺を隠しきれずかぶりを振りながら、ちらりと阿久津の顔を見ると、ふと目が合った。

眼鏡越しに見える切れ長の目は、表情ひとつ変えない。

覚えていないのだろうか。

そうこうしているうちに、他のゼミ生も研究室に入ってきた。

民法ゼミは全員で七人だった。

全員が机を囲んで輪になって座る。

奈緒は阿久津の隣りだった。

阿久津の腕が数十センチのところにあるだけで、緊張する。

< 22 / 303 >

この作品をシェア

pagetop