桜縁
第二章




刀を構え直し、相手を見据える月。


その姿は待っていた史郎ではなく、別の者であった。


「何者……!?」


月は酷く警戒をしている。それは月の姿を一目見れば分かる。


「そんなに怯えなくても、大丈夫だよ。女の子相手何かしようって気もないしね。」

にこりと笑う青年。そこには、殺気とかが感じられない。どうやら、追っ手ではなさそうだ。


月は刀をしまう。


「………すみませんでした。」


「別にいいよ。僕は【沖田総司】。君は?」


「……月。」


「月ちゃんか……。いい名前だね。月ちゃんはこんな所で何してるの?」


「…………。」


考えてみれば、敵から身を隠すためとはいえ、こんな人気のない場所に、女の子が一人でいたら、不自然すぎる。


「……人を待ってるんです。」


「人……?こんな場所で待ち合わせをしてるの?なんか、君の連れの人は凄い人だね……。」


「……………。」


月は境内へ座り直す。


「桜綺麗だね……。」


いつの間にか咲いていた桜を見上げる。


青い空の下、薄紅の花が綺麗に咲いていた。まるで、今置かれている現状が嘘のように思えてくる。


「町に出てみよっか? 待っても来ないみたいだし、町に行けば会えるかもしれないよ?」


町に行けば会える……。


その言葉に一筋の光が射したような気がした。もしかしたら、史郎に会えるかもしれない。


「……はい。」


二人は長州の町へと出て行った。









長州の町は薩摩同様、賑わいを見せていた。


臨戦体制に入っている藩だとはとても思えない。


二人は町の中を歩いて行く。


だが、何処を見ても史郎らしき姿は、何処にもなかった。


「……いた?」


沖田の問いに、首を横に降る月。


「そっかぁ。僕も人を捜してるんだけど、全然見つからないんだよね……。」


「沖田さんは誰を捜しているんですか?」


「一緒に長州に来た仲間だよ。いつも仏頂面していて、愛想がないんだけどね……。」


苦笑いをする沖田。だが、この様子だとずっと捜し続けていたのだろう。沖田もまた月と似たような境遇なのだ。


二人はしばらくの間歩き続けたが、尋ね人は見つからなかった。









夕闇が迫る頃、月と沖田は社へと戻って来ていた。


だが、そこには史郎の姿がない。


「……まだ、来ていないみたいだね。」


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