彼のすべては、甘い砂糖菓子でできている
彼氏がいるのに後輩と…


――あの人が“マダム”……



アンティーク調の店内には、

焼きあがったばかりのフィナンシェの香りが甘く立ち込めている。



「マダムなんて言うからもっとおばさんかと思ってたのに、すっごくキレイな人じゃん」



ヒソヒソと後輩パティシエに耳うつと、

彼はまるで眩いものを見るかのように、目を細めて彼女を見つめた。



「ふふ……主人はね、あなたの作るザッハトルテが大好きなのよ?」


「光栄です。ミスター」



心から嬉しそうな彼の顔に、紳士にも笑みが浮かぶ。



「今日は妻の誕生日でね、何かおすすめはあるかな?」



――変な光景。



不倫相手に夫の話をするマダム。

マダムのケーキを選んでいる、夫と不倫相手。


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