夜桜と朧月

奇蹟

「……も、行けよ」



寂しげに楓が言った。



「待ってんだろ?」



だが、桜の下に佇む楓は、儚く見えても確りと立っている。


だから、


「うん。もう、行くね」


右手は、私から差し出した。



「おう。アカと藤崎の結婚式には、来るんだろ?」

「うん。その時は……」

「すっげぇイイ女連れてくるから、見てろよ」



ふふ、とお互いに笑って、手を握り合った。


「先に行け」



その言葉に無言で頷いて、私はその場をゆっくりと去った。



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