弁護士先生と恋する事務員

 結ばれた心


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*



「なんかひでぇ事になってるな、俺ら。」


「そうですね。」



とりあえず事務所に戻って、ずぶ濡れになったお互いの頭をタオルで拭き合っていると

急に冷静さを取り戻して、顔を見合わせて苦笑してしまった。



「ククク…必死すぎてみっともねえなあ、俺。」


「私こそ、思わず逃げちゃってごめんなさい。」



月明かりだけが差し込む青白い室内で、

私たちは向かいあって、お互いの瞳を見つめてほほ笑んだ。


そしてほほ笑みが止むと

どちらからともなく、ゆっくりと引き寄せられるように近づいて

さっきとは真逆の、優しく、慈しむような口づけを交わし合った。


*.....*.....*.....*


長い長いキスが終わってようやく唇が離れると、私は言った。


「先生?」


「なんだ」


「私、安城先生とつきあってなんかいません。」


「……安城に好きだって言ってたじゃねえか。」


「そんな事言ってません。私はずっと…」


先生の頬にそっと手を伸ばして、触れる。


「ずっと、剣淵先生しか見てません。」


「…………」


長い沈黙の後、ため息のように先生が


「そうか…」


と言った。


「良かった―――」


先生は私の体を、ぎゅっと抱きしめて呟いた。


「お前が他の男に奪われなくて、本当に良かった…」


先生は鼻先を私の肩にうずめてそう言った。


「お前が安城と付き合ってるんじゃねえかと思った時――

今まで生きて来てこんなに後悔した事はねえってぐらい、悔んだんだ」


かすれた先生の声に、胸がキュンとしめつけられる。

私は先生の髪をそっと撫でながら言った。



「先生だけです。ずっと前から、先生の事が好きでした。」



窓際に飾られた、まっ白いバラの芳香が漂ってくる。


風を失った風鈴は、ただ静かに月を見上げていた。



重なった二人の影が、白い漆喰の壁に映り込んでいる。


「んっ……」


甘いキスに、吐息が零れる。


「………は…」


先生も、短い息をもらした。



「詩織…俺はどうしようもないくらい、お前に惚れてるよ…」


「先生、……嬉しいです…」



お互いの唇を吸ったり


下唇を甘く噛んだり


離れては角度を変えてまた繋がったり



気持ちを分けあうような深い深いキスに


二人は溺れていった―――

 
< 150 / 162 >

この作品をシェア

pagetop