社内恋愛のススメ
『同期のアイツ』



静かな空間を切り裂く様に、携帯電話の着信音が鳴り響く。


何度も何度も聞いた、聞き慣れた音。

色気がない私の着信音は、高校時代に好きだった曲。


間違っても、最新の曲ではない。



(こんな時間に、誰!?)


あぁ、私の至福の時間が奪われる。

人がせっかく、ビールを飲んでまったりくつろいでいるのに。


紗織ではないだろう。

さっきまで会っていたし、忘れ物もないはずだ。



電話の主を想像しながら、飲みかけのビールをベランダに置いて、部屋の中へと戻る。


部屋の真ん中に置かれた、真っ黒なソファー。

お気に入りのソファーの上で、携帯電話は鳴っていた。





「ん?」


携帯電話を手に取り、ディスプレイを確認して驚く私。

そこに表示されていたのは、よく知る人物の名前。



長友 千尋【ナガトモ チヒロ】


会社の同僚である彼。

同期入社で、同い年。

しかも、会社のデスクも隣。



会社では、しょっちゅうつるんでいる。


同期入社の女子社員は、次々に寿退社していく。

結婚すると言って去っていく、女子社員。


必然的に、残るのは男ばかり。

そんな男性社員の中でも、1番仲がいいのが彼だ。



同僚というよりは、男友達に近い感覚。

仲間であり、同志でもあり、心を許せる友達で。


そんな彼からの電話に、溜め息をついた。



「なーんだ、長友くんか………。」


休みに電話してくるなんて、一体どうしたんだろう。


会社での繋がりが強い彼と連絡を取り合うのは、平日がメイン。

土日に連絡があるのは、非常に稀なこと。


疑問を抱えたまま、私は長友くんからの電話に出た。



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