Return!!

-8-

尾行は続いた。
陽がとうとう沈んでしまうまで、2人は商店街を歩き回っていた。
ケータイを見ると、もう20:00前だった。

「ちょっと遅くなるね。マキちゃんと一緒(´▽`)ノ」

そう短いメールをお母さんに打つと、すぐに返事が返ってきた。

「了解~。今日、カレーだからね」

お母さんもカレー好きだなぁ、ホント。
十日に一遍は食べてる気がする。

「……ねぇ、もう八時だよ? まだ帰らないのかなぁ?」
わたしはマキちゃんに言った。
もう人はまばらで、さすがに気付かれやすくなってきたから、出来る限り声のトーンは抑えた。
聞こえてるか心配だったけど、マキちゃんは肩を大きく下げて、聞こえてますよって表情をしてみせた。
「どうかな、帰ってくれると助かるんだけど」
マキちゃんの切りそろえた形のいい眉毛がぐったりと下がる。

前を歩く2人の会話は弾んでいるようだった。
時々見えるヒナちゃんの横顔はよく笑うようになっていた。
手は繋いだまま。
ぼんやりしていると、ふっと急に2人の姿が消えた。
焦ってキョロキョロしていると、マキちゃんががっしりわたしの腕を掴んで商店街の脇道に引きずり込んだ。
「ケーサツッ!!」
「え……?!」
暗がりから見ていると、進行方向から自転車で巡回するおまわりさんがシャーッと通り過ぎていくところだった。
何で? おまわりさんに見つかったらまずいかな?
まさか、尾行してるのがバレた、とか?
「バカ、周りをよく見なさいよ」
マキちゃんに促されて、道を覗き込んだ。
商店街はとっくに途切れていて、ビカビカしたネオンの光るへんてこりんな名前のお店の看板がちらちら目に入った。

「あ……」

わたしはへたり込んでしまった。
「大丈夫?」
「う、うん……」
ここは商店街の奥にある、ちょっと、ううん、かなりいかがわしい場所だ。
ジョシコーセーはおろか、学生らしい人なんてもう見当たらない。
照明が明るいから、そういう意味じゃ危険は感じないんだけど、背中がゾワゾワして、一刻も早く逃げ出したい気にさせる、そんなところ。
「ここ、裏町だよね?」
マキちゃんはすっかり呆れきったような表情でため息をついた。
「あんたねぇ、気付くの遅すぎ」
「ご、ごめん……。でも、何で? わたし、そんなにぼんやりしてた?」
「違うって。小林とヒナ子、さっき一つ向こうの道に入ってった」
「えぇっ?!」
「しぃっ! 声が大きいっ」
「ご、ごえん……!」
震えて言葉が不明瞭になってしまう。
動悸が激しくなってしまうのをどうにか抑え、わたしは改めてマキちゃんを見た。
「まずいことになったわよ、嫌な予感的中って感じ」
理解出来ずにマキちゃんの言葉を待った。
「小林、きっとヒナ子を襲うつもりだわ……」

殺される。

マキちゃんの言葉にわたしは思わずそんなことを考えた。
ゾーッと血の気が足に向かって降りていくのが分かった。
「ど、どうしよう?! おまわりさん、行っちゃったよ?!」
「今から追いかけるには遅いわよ」
マキちゃんは大きめサイズのカーディガンを脱ぐと、自分の鞄に押し込めた。
シャツの袖をめくり上げ、茶色いショートボブの髪を頭に撫で付ける。
「よしっ、行くわよ」
「え?!」
わたしは声を上げていた。
「こんなところで何かあったら、誰がヒナ子を助けてくれるっていうのよ? ほら、とっとと行くわよ」

マキちゃんに腕を掴まれ、わたしは引きずられるようにして裏町の更に奥へと進んでいった。
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