はじまりは政略結婚
思わず入り口で立ちすくんでしまい、兄に優しく背中を押され促される。

だけど、後一歩が踏み出せないでいた。

「お兄ちゃんみたいに慣れてないから。こういう社交パーティーの場所って、本当に苦手」

そう、私たちは大手出版社、百輪廻(ひゃくりんね)出版の社長を父に持つ兄妹だ。

三歳年上の兄は副社長として、会社経営のノウハウを、父の側で勉強しながら働いている。

そして私は、いわゆる『社長令嬢』というやつだけど、世間一般の人たちがイメージする華やかさとは、無縁の人間だった。

子供の頃から人見知りで、内気な部分がある。

それも大人になるにつれて多少は直せたけど、今でも人の多い場所や、華やかな場所は苦手だ。

「今日は、リラックスしてろよ。せっかく久しぶりに、一緒にこうやって出かけられたんだから」

確かに、最近は兄の仕事が忙しくて、会う機会すらなかなかなかった。

自他共に認めるブラコンの私にとっては、それはかなり寂しいもの。

でも言い換えれば、今日こうやって一緒にいられるのは最高だ。

そう思ったら、この華やかな場所も乗り切れる気がしてきた。

「うん。お兄ちゃんの言う通りね。今日は楽しむわ」

やっと一歩を踏み出し、広間の中へと入っていったのだった。
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