山神様にお願い
1、春
・居酒屋「山神」
都心から電車で1時間ほどの郊外の、ほどほどの規模の駅。
その駅前には昔からの商店街が東西に伸びていて、一等地にはやはりほどほどに大きなショッピングセンターが入っている。
地元との競争はせず、足りないものを売りますのスタンスで、商店街とショッピングセンターは上手に共存していた。ちょっと珍しいよね、ここに住んで4年目の私はそう思う。
こじんまりしていて、下町情緒がまだちょっとは残っているこの町が、私は好きだった。
大学入学と同時に始めた一人暮らしで、この町にやってきたのは4年前。今は大学4回生で、学校には既に週に1回、水曜日の2限目のゼミに通うだけでいいのだ。
私は深呼吸を一つして、目の前の古いドアを見詰める。
東西に伸びた商店街の東の端、ちょっと引っ込んだ薄暗い路地。その突き当たりにある小さな居酒屋の前。
さて、どうなるかな。ここでも断られたら、もう諦めたほうがいいのかも――――――
「よし」
声を出して、腕時計で時間を確認する。約束の時間、5分前。いくぞ。
ガラガラガラ。
音を立てて横にドアをスライドさせ、薄暗い店内に顔を突っ込む。
ざっと見まわしたところ、誰一人として見当たらない。
・・・あれ?おかしいな。今日、この時刻だったよね?
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