山神様にお願い


 下はズボンであれば何でもいいといわれていて、無難にジーパンをはいてきていた。油汚れが結構あるからね、と聞いたから。

「こっちだよー」

 店長の夕波さんはおいで、と手をヒラヒラする。
 
 店の一番奥、面接の日にこの人が降りてきた細い階段を、ついてきてねーと言いながら上っていく。

 階段のところには綺麗とは言いがたい文字で、「店の人だけの場所です」と書いた板が貼ってあった。

 ・・・店のひとだけ。書き方、他にもあると思うけど。関係者以外立ち入り禁止、とかさ。私は緊張を忘れて苦笑する。

 上に上がって驚いた。

 階段を上がってすぐ、ドアもないその部屋の中。目の前に広がるのは、緑の洪水だ。

 6畳くらいだろうか、私の部屋ほどの広さのそこは、壁紙も天井も床も、一面の緑色だった。

 緑色に塗られた空間に置いてあるのは、茶色いボロボロのソファーと、観葉植物。大きなものも小さなものも、天井からぶら下げているものも床に置いてあるものも、いたるところに植物の鉢が置いてある。そして、これまた古い机に椅子が3つ。いずれも茶色の木製で、貼られている合皮は緑色。

 まるで森だ。

「・・・わお」

 簡単に感想を漏らすと、夕波さんがまたあの笑い方をした。あははは~って、軽やかで、あけすけな笑いを。



< 18 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop