どこからどこまで

「すっごいくるってる!」


 夜。

 さこねぇとあたしを含む美術科同学年数人で外食をしたあと、あたしは一度家に寄った。

 みんなでご飯、楽しかったけど、やっぱり翔ちゃんの手料理の方がすきかな。

 それほど食にこだわる方ではない。味のわかる人間かと訊かれたら、そうであると言える程とはとてもじゃないが言えない。

 お風呂に入って、軽く髪を乾かして家をでた。

 お隣さんはどうやらご在宅らしい。電気が点いているのがなんとなくわかった。

 翔ちゃんは夕飯、独りで食べたのかな。

 …ああ、だめだ。今は翔ちゃんのことよりも、課題に集中しなきゃ。

 翔ちゃんは独りでとる食事になんの寂しさも感じないかもしれない。それでも、いつも食事を用意してもらっているせいかなんとなく申し訳ない気持ちになった。

 なんでだろう。あたしがいなければ、あたしの分のご飯を用意する手間だって省けて、翔ちゃんは楽ができるはずなのに。

 ゆで卵をむいていた手が止まっていたことを思い出す。

 翔ちゃんは、あたしを心配してくれてる。思い上がりじゃなかったら。

 そうは言っても宿泊先は徒歩10分で着く学校だ。

 さこねぇの言う"過保護"の意味が、ちょっとわかった気がする。

 もちろん、思い上がりじゃなかったら、だけど。

 止めていた足を再び動かす。生乾きの髪は、きっと風が乾かしてくれるはずだ。

 翔ちゃんが隣にいたら、生乾きの髪を注意されるんだろうな。

 ……………あ、まただ。

 こんなに考えてしまうくらいなら顔を見てから行こうかな、とも思った。

 いや、そんなことをしたら課題が一向に進まなくなってしまう。あとで困るのは自分だ。

 今、翔ちゃんに会ってしまったら、学校に行かずにそのままその場でダラダラと過ごしてしまうだけな気がした。
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