カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

この時間に本来とっくに乗っていたであろうエレベーターは、おそらく2往復はしただろう。

そんなエレベーターの磨かれた扉に影が映った気がして、不意に振り向く。
電話に気を取られていたせいか、視線も感じる気がしたけどそこには誰の姿もなく。

私は首を傾げながら扉の方へ向き直した。そして、今度は本当にひとつ長い息を吐いて、下りのボタンを押しながら、要へと意識を切り替える。


「全然理解出来ないわ」
『困るのはオーシャンだと思うけど?』


間髪入れずに返ってきた言葉は、恐喝じみたセリフ。


なによ。なんだっていうのよ。
なんで私が会社のために犠牲になりかけてるの?


グッと手を握り、反抗しかけたときに、頭を過る。


――――でも、今の私から会社(仕事)をとったら、何が残るって言うの?


「……わかったわよ! その代わり30分が限度! 一応私にだって仕事があるのよ!」
『オレ、約束は守るから大丈夫。じゃ待ってる』


プツッと躊躇いもなく通話を切られるあたり、本当になにか急いでる雰囲気はする。
それにしても、そんななかなんの用だって言うんだろう。

数年前の私なら押しに負けることなんかなかったのに。
でも、さっき過った自分への問いが、完全に私を弱気にさせたのも事実。

今の私はちょっと弱っているから……『なにか変わるかも』なんて、普段ならしない他力本願に頼ってるとでもいうの……?


開いたエレベーターの音で顔を上げると、なかにある鏡に自分が映し出されていた。

そこに立っていたのは、いつぶりなのか……不安そうな顔の私がいた。




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