恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
液晶の上を数度指先で叩いて、発信。
コール音を聞きながら、煙草でもう一度肺を満たして灰皿に寝かせた。


知らない番号からなんて、とらないかもしれない。
そう思っていたのに、短いコールであっさりと繋がった。



『…はい?』

「突然失礼します。私、豊田です。豊田恵美。藤井さんの携帯でよろしいでしょうか」



驚いていたみたいだった。


当然だ。
以前、カフェでみさがもらった名刺をそのまま放置するのは気が引けて一応持ち帰っていたから、わかった番号だ。


私からかかってくるなんて、思いもしなかっただろう。



『…あぁ、恵美ちゃん。よろしいですよ。藤井です。よく番号わかったね』



ごちゃごちゃ話すつもりはなかった。
だから、無作法だとしても私は直様本題を切り出した。



「みさにもう近づかないでください。みさと笹倉君の関係、わかってるんですよね?」



友達と関係のあった人と、なんて、いくら好きでも私には考えられないことだった。


だから、あの二人が関係を持った時に終わりは決まってた。


ただ、不完全燃焼の気持ちだけが燻っている。


二人が付き合ってくれたら、きっと。
きっと消火できる。



『くっ』



電話の向こうから聞こえたのは、あの不愉快な、笑い声。


そして。


……私は唇を噛み締めて、くゆる煙草の煙を見ていた。
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