恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「それに?」


藤井さんはベンチの背凭れに体を預けて、軽く腕のストレッチをしながら話していた。
私は倒れてから朝までぐっすり寝てしまっていたけれど、藤井さんは心配して朝まで起きていてくれたと、父から聞いた。


「いえ、なんでもないです。寝不足ですよね、すみません」

「大したことない。飯食って帰るか」



診察もすでに終わっている。
もう一度だけ病室に顔を出してから、帰ろう。


あれだけ私の頭を悩ませた異動の話は、今思えば、人生の選択肢、岐路に立っている合図であっただけのように思えた。


今日、私は実にあっさりと自分の行く道を決めていた。


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