恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
病院の中庭で、ベンチに腰掛けながら薄い雲が散らばる空を見上げる。
天気がよく、風の気持ち良い日だ。


『店は大丈夫だから、明日も大事とって休みなさい』

「…はい。ありがとうございます、それじゃあ、甘えさせていただきます。ご迷惑かけてすみません」


結局明日もお休みをいただくことになった。
お詫びと礼の言葉を伝えて切ると、隣に向けぺこりとお辞儀をした状態で電話を掲げた。


「藤井さんも、今回は本当にお世話になりました。電話ありがとうございます」


どういたしまして、と電話を受け取ると、ひょいひょいと指先を画面で滑らせて何か操作してから懐にしまった。


「いいですねぇ、スマホ」

「お前のは…ガラケーに加えて随分年季入ってんな」

「買い換えようと思った時にスマホが出て、悩んでるうちにずるずる使ってるんです。スマホだと母の鬼電に耐えられない気がして」


仕事が終わる頃には充電切れは間違いなさそうだから。


「お袋さん、目ぇ覚めて良かったな」

「はい。少し話せたし、安心しました。すぐに良くはならないだろうけど、父に任せます」


ぐっと両掌を空に突き上げて背筋を伸ばした。


母はずっと自分が強引に押しかけて、2番目のままだと思ってたのだと思う。
だけど、本当にそうなのだろうか。


「後は二人でゆっくり話して、時間取り戻したほうが良い気がするので」

「異動の話、これで決めたかと思った」

「父一人は大変だろうし。帰る方が良い気はしてます。それに…」


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