契約妻ですが、とろとろに愛されてます

入籍

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琉聖さんは以前、偽りの婚約を決めた後に訪れたレストランに連れて行ってくれた。


レストランへ入ると、見覚えのある支配人がうやうやしく近づき一礼する。琉聖さんは軽く頷き、私のキャメル色のカシミアコートを脱がしてくれる。コートを預けると窓際の席に案内された。軽く腰に置かれ、中へ進み席に着くまでにたくさんの視線を感じる。私ではなく琉聖さんの際立つ容姿が注目されているのだろう。


席に着くとソムリエがやって来てワインを勧めるけれど、琉聖さんは車なので、と断りペリエを頼んでいる。ソムリエと話をしている横顔に思わずうっとり見つめてしまう。


ここへ来た日からそんなには経っていない……こんなに琉聖さんを愛してしまうなんて思ってもみなかった……。


「疲れた?」


ふたりだけになると、琉聖さんはテーブルの上に置いた私の手の上に大きな手を重ねる。


「ううん」


柔らかい笑みを浮かべると、琉聖さんが私の手を自分の口元に持っていくのが目に入り慌てて手を引こうとした。


「琉聖さんっ」


声を小さくしてたしなめるけれど、かまわずに私の手の甲に琉聖さんはキスを落とす。


「手で我慢しているんだ」


甘い笑みを浮かべる琉聖さんはさすがだと思う。クォーターの血が流れているせいなのか……。


美味しい料理に舌鼓を打ち、ケーキとアイスのデザートまで平らげた。量が少なく出てくるのが良いのだろう。でも琉聖さんには足りたのか……。


「ご馳走様でした 琉聖さんはお腹いっぱいになった?」


「ゆずを後で食べるからいいよ」


真面目な顔で言い、私が赤くなるのを楽しんでいる意地悪で甘い琉聖さんだった。





「ゆず、これから籍を入れに行かないか?」


車に乗ると琉聖さんが真剣な表情で言う。


「え……」


突然の話に驚いたけれど、嬉しくてすぐに頷いた。


琉聖さんはマンションへ戻る道にある区役所に向かった。


書類は用意周到に書き込まれてあり、私は婚姻届にサインをするだけで良かった。入籍してから帰りの車の中、琉聖さんはエンジンをかけると、身を乗り出して唇を重ねた。ひんやりとした唇は私の唇に重なると心地よい体温になり、お互いが愛を確かめるように唇を求めた。

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