これが、私の普通
携帯電話
成長するにつれ、いつからか心の蓋はなくなり、
「うちは親父いないよ。」
と言えるようになっていた。
おそらく、中学生の頃だろう。


中学3年になり高校受験を控え、勉強を頑張っていた頃、まわりで少しの人間だけ携帯電話を持ち始めていた。

私も欲しいと思ったものの、片親の我が家には携帯電話を買う余裕も、月々の支払いをする余裕も、ない事は知っていた。
だから、携帯電話ショップでもらったパンフレットを見ては、これいいなぁと思いながら眺めるだけであった。


私は、無事に第一希望校に合格し、自分の部屋で多少浮かれていた。

その時、庭に車が入ってくる音がした。
母親が帰るにはまだ早い、夕方4時前後。

窓から庭を見下ろすと、車から出てきたのは、なんと父親だった。

もの凄くイヤな気分に襲われた。
お願いだから部屋に来ないで!
そう願う私に無常にも部屋をノックするコンコンという音は聞こえてしまった。

「開いてるけど…」
そう愛想のない言葉を返すと、ドアはゆっくり開いた。

父親の手には、携帯電話の箱があった。
「おもちゃ買ってきたぞ」と言うと、私が欲しかった携帯電話を差し出したのだ。
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