身代わり姫君の異世界恋綺譚
――なに? この甘い匂い……気が遠くなりそう……。

七段飾りのお雛様の一番下に飾られるような男の手が、真白の手首を掴んだ。

――嫌だ!
何かが違う。
これは夢じゃない!
手首を掴まれる感覚もある。

「いやっ!」

真白は男の手を振り切り、闇雲に走り出した。


◇◆◇


「物の怪が敷地内に入った……」

安倍清雅(あべの せいが)は物の怪の気配を感じ取りふすまを開けた。

表袴(うえのはかま)をひるがえし、物の怪の気配のする方へ走る。

身軽な身体は欄干から飛び降りると、音もたてずに地面へ降りた。

――物の怪が! 陰陽師のいる屋敷と知って来たのか?

清雅の耳に足音が聞こえてきた。

――こっちへ来る!

清雅は立ち止まり、身構えた。

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