《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~

真夜中の逢瀬



「ああ、ライア。良い所に……今から呼びに行こうとしてたんです」

 部屋に戻る途中、王宮の廊下でハリと出くわす。

「今日は何時もより帰りが早いですね。もう野暮用とやらは良いのですか?」

「ああ、もう用は済んだんだ。気を揉ませて悪かったな……」

 何処か上の空なラインアーサにハリは密かに眉を潜めた。

「ライア、眠いのですか?」

「いや、全然!! で、どうした? 俺に何か用事?」

「……ええ。イリアーナ様がライアの事をお呼びしていまして。今日も帰りが遅いと伝えましたが、とりあえず談話室でお茶の用意をしてお待ちするとの事です」

「ありがとう、じゃあ姉上の所寄ってみるよ」

「………」

 イリアーナの元へと急ぐラインアーサの背を、ハリは心許なげに眺めていた。

 ────イリアーナの自室へ向かい談話室の扉を軽く叩く。中からどうぞと声がし、中へ入るとお茶の良い香りと甘い焼き菓子の香りが鼻先を(くすぐ)った。そういえば夕食を取り損ねた事を思い出し、空腹感が急激に目を覚ます。

「姉上、何かあった?」

「あらアーサ! 早かったのね。ハリ君が居ないかも、と言ってたからもう少しかかると思っていたのに……」
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