【短編】……っぽい。
……っぽい。
カタカタ、カタカタ……。
同僚たちはみんな帰り、節電で電気もほとんどが消え、だいぶ寂しさが募るフロアに、あたしがキーボードを叩く音だけが響いている。
「うー、目がー。目がーっ」
季節はすっかり冬で、人肌が恋しい時期だというのに、彼氏に逃げられたばかりで、しかも新しい彼女はあたしと仲の良かった同期の子、という、負のループにどっぷりハマっていることも相まって、あたしはかなり参っていた。
さらに追い討ちをかけたのが、もうすぐ資料が完成する、という間際、パソコンが突然フリーズしてしまい、最初から作り直さなければならないハメになったのだから、もう泣く寸前だ。
会議は、明日の朝いち。
何がなんでも、今夜中に仕上げなくては……。
「大崎さん、まだですか?」
「ずびばぜん、がんばっでいばず」
「……とりあえず、鼻をかんでください。何を言っているのか、さっぱり分かりません」
「あ、あぢがどうございばず」
す、と差し出される、ボックスティッシュ。
しかも、潤い成分がたっぷり入った高級ティッシュを惜しげもなく平社員のあたしに使わせてくださるのは、鬼課長の名高い、真山課長だ。