【短編】……っぽい。
新しいのを買って返せ、なんて言わないよなーと若干ビクビクしつつも、受け取らなかったらそれはそれで何か言われそうなので、遠慮がちに何枚か引き抜き、ちーんと鼻をかむ。
しかし、なぜ課長は帰らないのか。
使い終わったティッシュを丸め、ゴミ箱にそっと捨てながら、あたしは疑問に思う。
と。
「で、さっきは何て言っていたんですか?」
「ああ、すみません、頑張っています、と言ったんですけど、しかし鼻水というのは厄介極まりない人間の機能ですよね。女子には鼻毛もムダ毛だというのに、嫌になります……。はあ」
「大崎さん、女の子が鼻毛とか言っちゃいけない。完全に捨てていますね、自分の女を」
「どうとでも言ってください……」
自分の席に戻らず、あたしが鼻をかむ様子を見ていた課長と、鼻毛の話で会話をしてしまう。
いいのですよ、あたしは。
女の子じゃなくても。
課長に女の子な部分を見せたところで、一体、何があるというのだろうか、それに、しばらくの間は、そういうのは遠慮したいのが本音だ。
またカタカタとキーボードを叩きながら、しかし本当になんで課長まで残っているのだろう、と、聞くに聞けない疑問をかき消す。