ここに在らず。
「現実に…なる…」
「あぁ。そうだ」
彼の返事を耳にした瞬間、気がつけば辺りを包む暗闇は綺麗さっぱり消え去っていた。
月明かりが差し込んで、それは彼を照らし出している。フードを被った彼の姿。明るい所で見ると彼の背は高かった。彼の持つ雰囲気、それは変わらずどこか異様な暗さを醸し出していたけれど、それは私の知っている暗闇とは違うものだと思った。だってもう、怖さを感じない。
ふと空を見上げる。気づかなかった。今日はとても明るい、月の綺麗な夜だった。
「…また、会えますか?」
「…俺に会いたいのか?」
「はい。会いたいです」
素直に想いを口にすると彼は「分かった」と返事をしてくれて、そしてまた微笑んでくれた。その瞳には変わらず私が映っている。
奇跡だと、私は思った。
このあなたに出会った現実を、あなたのくれた言葉を絶対に忘れない。
そう誓ったこの日が、私がトウマさんに初めて出会った日。夢のきっかけの日だった。