恋愛メンテナンス
clean 4 とんでもねぇ
親切で優しい、私の癒しの王子様かと思ったら、とんでもねぇ奴だな。

住んでる人間に有り得んぞ、コイツのコメントは。

「チッ…」

わざとらしく、舌打ち返しをしてやる。

「まぁ、これで一先ずはチャラでいいだろう?」

また、何を言うかと思ったら、

「銭湯ん時は、子どもに声掛けてくれて、有難うな」

「えっ?」

「あの時の貸しは、さっきのでチャラにしてくれ」

………。

それで、彼氏のフリして助けてくれたって事?

「改めまして、今日から101号室の新たな住人になりました、永田 輝(ながた あきら)と申します。宜しくお願い致します」

何よ、改まり過ぎでしょ、急に…。

そんな深くお辞儀されたら、こっちまで頭を深く下げなきゃならんじゃないの。

「あぁ、あの、こちらこそ。美空(みそら)としこって言います。分からない事が有ったら聞いて下さい」

真面目なんだか、性格悪いのか、どっちなんだろう。

でも…。

なんだろうね…。

今、しばらく…。

この永田という男と目が合ってる最中なんだけどね…。

視線をなかなか、そらせないの…。

だってね…。

瞳がキラキラしてるの…。

吸い込まれそうなくらい、引き付けられる…。

私の心の中にある、自分を必死で支える軸…。

それに螺旋を描きながら、ゆっくりゆっくり…。

この人の瞳のキラキラが巻き付いていく感じ…。

「何?」

頭を少しだけ傾げて言われて、現実に戻る。

ヤバイ…。

今の仕草もキュンときた。

「何でもない、何でもない!」

完全に持っていかれていた。

あぶねぇな~…フーッ…。

「そういえば、先に言っとくわ」

永田さんは腕を偉そうに組んで、冷たく言った。

「美空さん、あんた我が強そうだから忠告しとくね。俺、メチャクチャ神経質だからさぁ、騒がしいのダメなんだよねぇ。うるさいの、気を付けといてくれる?」

あぁっ?!

あぁっ?!あぁっ?!あぁぁぁっ?!

何、コイツ。

我が強いって、それはおまえだろ!

「あら、嫌だわ~。実は私も永田さんに負けないくらい神経質なんですよねぇ。なんせ、子どもが大嫌いなんですよぉ。だからお子さん連れてこないで下さいねぇ。うるさくて敵わないからぁ~」

コイツ、離婚か別居でもしとんのかい。

そりゃあ、そうだわな。

こんな自分で神経質だとか言う男に、誰が一緒に居られるかっての!

我が強いって…。

同じ事を悟ったとは言え。

我の強い奴に、我が強いと言われるとは。

…やっぱりコイツ、ムカつくわ。
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