「お待たせ、早瀬さん。ごめんね?遅くなって」

微かに雪の舞い散る中、息を切らせて駆けてきた人物をジッと見つめる。

お互いの口から吐き出される白い息が彼の顔を霞ませて邪魔をする。私は目を凝らした。
優しさに満ちた端麗な笑顔がこの目にハッキリと見えた瞬間に私の胸がドクッと高鳴る。
こうして仕事終わりに待ち合わせるだなんてまるで本物の恋人同士みたいだ。
こんな日が来るだなんて。

「…早瀬さん?どうかした?」

彼が屈んで、不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
恍惚と彼を見つめたまま固まっていた私は、その顔の近さにハッと驚いた。

う…わ…!!

「あ…っ、す、すみません!ぼんやり…してしまって…っ」

慌てて正気に戻り彼からサッと目を逸らした。
緊張でガチガチな私は何を話したらよいか分からずそのまま口ごもった。

「いや…謝るのは俺の方だよ。待たせてしまったから怒ってるのかと思った。会議が終わらなくてさ。アカマメが張り切っちゃって。振り切って逃げてきたけどね」

彼の言い方に、思わずぷっと笑い出してしまう。

「か…、片桐課長でも言うんですね、アカマメだなんて。意外です」

「で・も、って何。いつも彼に一番絞られてるのは俺だよ?背が小さくて怒ると真っ赤になる『赤沼部長』だからアカマメ。君たちがそう呼んでいることくらい知ってるんだから。俺だって腹いせにそれくらい言わせてもらわないと」

真面目なだけのエリート課長かと思ったら部長をニックネームで呼んだりする。
そんな彼の親しみやすい空気をもたらすリードに私の緊張は徐々にほぐれつつあった。

やっぱり素敵な人。
私なんかの誘いに乗ってくれて今こうして二人でいるのが嘘みたい。

「それで?イタリアン?フレンチ?何が食べたいの?待たせたお詫びに何でも言って?」

言いながら歩き出した片桐課長に付いて私も前へ進む。
積もり始めた雪の感触をキシキシと靴越しに感じた。

「いえ、私、そんなつもりじゃ…」


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