夜香花
第一章
 それから約一刻後、真砂の姿は街中にあった。
 城主の室とはいえ、城よりも、もっぱら城下の屋敷にいるらしい。
 街中の屋敷なら、城に入り込むよりも、よっぽど容易い。

---なめられたもんだな---

 屋敷を巡る築地塀に沿い、ゆるゆる歩きながら、真砂は自嘲した。
 昔ほど、乱破は活躍していない。
 乱破内でも権力闘争や結束の乱れが度重なり、力が衰退したためだ。

---だから、つるむとろくな事がないのだ---

 真砂の一党も、例に漏れず衰退の一途を辿っている。
 皆は真砂を、党を建て直すことのできる、唯一の者だと言う。
 それだけの知識も力もある。
 若いが、真砂に勝る者はいない。

 だが、真砂はその地位を厭う。
 衰退しつつある組織など、最早不要のものなのだ。
 力のある者も、無能な者とつるめば足を引っ張られる。

 群れるから、上下関係が出来るのだ。
 皆が単独で動けばいい。

 そうすれば、誰に遠慮することなく、己の力を発揮できる。
 組織で動かず、個々で動けば、いらぬ内部闘争など起こらぬではないか。

 弱い者は淘汰され、強い者が生き残る。
 守ってもらわねばならない乱破など、乱破ではないのだ。
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