闇に響く籠の歌
第4章
その部屋は、ある意味で異常としかいいようがなかった。太陽が高く昇っている昼間であるにも関わらず、分厚いカーテンが惹かれている。部屋の中は照明がつくことはなく、どこか暗い雰囲気だけが漂っている。

部屋のあちこちに散乱しているカップ麺やコンビニ弁当を食べ散らかした残骸。広げられたままの週刊誌や新聞の誌面。それらがどこか空虚な気配を醸し出す。

空気を入れ替えていないせいか、室内はどんよりとしたものになっている。この分では、部屋の住人はいないのだろう。最悪、ここで死体となっているのかもしれない。そんなことを思わせる雰囲気の中、唯一の明かりとなっているのがテレビの画面。

その画面がせわしなく切り替わることで、この部屋が無人ではないということが分かる。しかし、神経質に変えられるチャンネルは、この部屋の住人が何を求めているのか分からない状態にしてしまっている。

テレビの画面で爽やかな笑顔を振りまいて喋るコメンテーター。その内容は『3のつく日にかごめ歌が聞こえると、死人が出る』という一種の都市伝説ともいえそうなもの。どうして、このような内容がテレビで麗々しく語られるのか。

本来であれば、これはネット上の妄想。ただの都市伝説と片付けられる事象のはず。しかし、2か月ほど前から3のつく日に変死体が発見されているという事実。そして、その死亡推定時刻にかごめ歌が耳にされているらしい。

当初は誰も信じなかったことだが、ネット上で呟かれる回数が多くなっていく。これが真実であろうとなかろうと関係ない。呟かれた回数が多ければ多いほど現実味を帯び、噂は一人歩きを始めていく。

目まぐるしく変わるテレビの画面。そこでは、真面目です、というような表情でこの変死事件のことが扱われている。それを耳にしながら、この部屋の呪運は体をガチガチと震わせることしかできないようだった。


「私は悪くない……そうよ、あれは私のせいじゃないんだもの。彼女が勝手にああなった。うん。私には関係ないのよ」


部屋のフローリングの床の上で体育座りをした人物は、テレビのリモコンを絶え間なく動かしている。その切り替わる先は昼のワイドショー。様々な局で切り口こそ違え、かごめ歌のことを取り上げている。


「私のせいじゃない……それなのに、どうしてよ……どうして、何度も何度も同じような事件が起こるのよ……」

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