LOZELO



9.アイラブユーが聴きたくて



朝の回診のあと、もうすぐ着く、と連絡をくれたのは莉乃。

杏子ちゃんも調子が良いみたいで、朝一番で私の病室に来て、昨日の検査の話を教えてくれた。

病状は良好に経過していて、私より一足先に今日の昼から食事が出るらしく、私も、心から嬉しかった。

ルーズリーフに書き出した文字たちを読んで、最終確認。

最初で最後の大チャンスな気がしている。

こういう機会がないと私は多分、何も言えずに逃げ続けると思うから。

いちいちこんな覚悟の元でしか気持ちを言えない自分も、変えられたらなと思いつつ。

昼ぐらい、とは伝えていたから、多分お父さんはその頃に来るのだろう。

間もなくして廊下を走るばたばたした足音が聞こえてきたから、すぐに莉乃だとわかった。

試合の時は軽やかに走るくせに、その緊張感がなくなるとドンくさい走りをするんだ、莉乃は。


「廊下は走らないでくださーい」

「だってさ、早く紗菜に会いたくてー」


今日もかわいいー!なんて大きな声と一緒に私を抱きしめてくるから、思わず受け止めながらも笑ってしまう。

抱きしめられるなんて、いつぶりだろう。


「何それ、今日もかわいいって」

「だってほんとだもん!ちっちゃくて、目くりっくりで、かわいいじゃん紗菜」

「照れるからやめてよー」

「照れてるとこもかわいい」


よしよし、と私の髪を撫でて、にっこり笑う莉乃を見ていると、なぜか安心する。

多少なりとも病院では気を遣う場面もある。だからかな。

素でいられる莉乃との時間は、心地いい。
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