イジワル御曹司に愛されています
どちらさまですか
神様はいないと見た。

少なくとも私の味方ではない、うすうす気づいてはいたけれど。入社してから4年、時間も気持ちもめいっぱい注いできた大事な職場に、こんな酷な再会ルートを敷くなんて。


「都筑(つづき)と申します。本日はお忙しい中お時間いただき、恐縮です」


にこりと微笑んでみせる整った顔。この笑顔で、たいていのことは思い通りにしてきたのを私は知っている。特に女の子関係。

交換したばかりの名刺を、もう一度確認した。

都筑名央(なお)。はい、残念ながら、どう考えてもご本人です。


「こちらこそ、お話をいただいて光栄です、どうぞ」


私の上司が着席を促すと、都筑くんはにこやかに微笑んで、応接室のソファに腰を下ろした。

すらりとしたほどよい長身に、嫌味のない身のこなし。

背が高いのは記憶の通りだけれど、動作や仕草は、こんなだったかな…と首をひねってしまう。というかもうよく覚えていない。

商談相手は上司のほうと踏んだのだろう、失礼のない程度に私にも視線を投げつつ、会話は主に松原(まつばら)課長と進めている。


「こちらが3年前に開催した際のレポートです。600社を超える企業が国内外から参加し、会期中に行われた商談の総額は240億円。参加企業へのアンケートで得た数字です」

「すごい規模ですね」

「国際展示会としては日本最大規模といえますから」

「御社が主催を?」

「ええ。まず弊社の沿革から簡単にご説明させていただきますね」


資料を並べるスピードも順番も、無理なくそつなく。親切でわかりやすい説明に、耳に心地いい落ち着いた声。

だんだん自信がなくなってきた。

これ、本当にあの都筑くんだよね?


* * *


「都筑って、高校のときの?」

「そう、あかね、同じクラスだったことあった?」


そろそろ10年のつきあいに達しようとしている右藤(うどう)あかねが、男まさりに腕を組んで、うーんと眉間にしわを寄せた。


「あの人目立ってたから、同じクラスかどうかって逆に覚えてない」

「わかる」
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