俺様社長と極甘オフィス
心配をかけさせないで(大丈夫?)
 そして土曜日、私は出社していた。本来は出勤予定ではないが、家でじっとしてもあれこれ余計なことを考えて落ち着かない。

 それに、五十二階のドアのパスワードがまだ分かっていない。あれこれありすぎて忘れていたが、それの期限も迫ってきている。とにかく私は社長に聞いた話も合わせて、候補になりそうな数字を片っ端から入力してみた。

 しかし、どれも反応を示さない。音もなく入力した数字がゼロに戻され、壊れているんじゃないかと疑うほどだ。

 いい加減、嫌気が差して適当に数字を打ち込んでみるが、もちろんそれでどうにかなるような奇跡は起こったりはしない。何度目か分からないため息をついて、私はとりあえず部屋に戻ることにした。

 音を立てて下がっていくエレベーターの壁に、だらしなく体を預ける。社長は今、お見合い中なんだろうか。どんな女性が相手なんだろうか。

 そこで私は頭を振る。そんなことを考えても辛くなるだけだ。考えるべきことはそんなことじゃない。秘書の私が、今彼のためにできることはパスワードを探すことだ。

 今日は仕事ではないことに甘んじて私服で来ている。それに合わせて、眼鏡ではなくコンタクトにしているけれど、フライト予定もないので、なんだか不思議な気分だ。

 重い足取りで社長室に戻る。自分のパソコンを立ち上げ、とりあえずコーヒーでも淹れようと給湯スペースに向かおうとしたときだった。

 部屋にノック音が響いて私は必要以上に驚いた。なんたって今日は、形式上私も社長も休みを取っているし、来客予定なんてない。誰だろうかと不審に思ったが、返事をしないわけにもいかない。

 小さくどうぞ、と答えると、ドアが開けられ顔を覗かせたのは意外な人物だった。
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