溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
プロポーズは突然に

遠くから聞こえる、アラームの音。それを止めて、ベッドから起き上がろうとする……が、それはできなかった。

長い腕が、私の腰に巻きついている。振り返れば無防備な寝顔をさらして眠っている私の偽の恋人。

……いや、婚約者。

桐島主任と初めて実家を訪れてから、一ヶ月が経った。

あのあと、私と主任は連れだってお芋をもらったお礼に、ご近所の渡辺さんのお家に伺った。

彼は、こういうこともあるだろうと予測していたらしい。用意していた菓子折りを渡していて、あまりの用意周到さにやはり仕事ができる男は違うなと変に感心してしまった。

完璧な振る舞いをする彼に、ご近所の渡辺さんは男前なうえに礼儀正しいともう大絶賛。

「沙奈ちゃんは、いい人を見つけた」とバシバシ背中を叩かれて、私は苦笑いするしかなかった。

当初の予定では、桐島主任にはとりあえず一度だけじいちゃんに恋人として会ってもらえればいいと思っていた。

だけれども、いいのか悪いのか、よそゆきな主任はとてもじいちゃんにも気に入られてしまった。そんな予定ではなかったのに、引きとめられてお泊まりすることになったくらいだ。

田舎の地域密着型ショッピングモールで着替えを買う都会人な主任の姿はあまりにも浮いていて、それがとてもおかしくて笑ってしまった。

こっそり笑っているのを見つかって、「なにがおかしいのかな」と、笑顔で問い詰められたのは恐ろしかったな……。

そうしてじいちゃんと主任は仲良く晩酌を交わし、いつの間にか次の約束までしていた。

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