溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
そんなわけで、次の週もじいちゃんと約束をしたからと、主任は私とともに再び実家を訪れた。
じいちゃんの日課である散歩に付き合っていたら、“ご近所ネットワーク”で主任の存在を知った方々が次々とエサに群がるアリのようにやってきた。
そしてまた彼は、ご近所さんたちに驚くくらいに愛想がよろしかった。
会社での無表情が嘘のようなあまりにもすごい愛想よさに、引き気味で盛大に顔を引きつらせている私の手を、彼はご近所の方の前でしっかりと握った。
私との仲の睦まじさをアピールしながら、「ひとり暮らしのおじいちゃんがとても心配なので、どうぞよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げる。
そうして、ちょっと高騰しすぎじゃないかってくらい上昇していた株を、彼は更にグングンあげたのだ。
そのため、じいちゃんにもご近所の人にも、主任は“恋人”ではなく、“婚約者”として認識されている。
そんなわけで毎週末、私は主任を伴ってじいちゃんの待つ茨城の実家に帰っている。
帰るたびに、たくさんの貢ぎ物がご近所の主任ファンから届く。それのお礼を言いにじいちゃんと散歩がてらお礼に回ることは、もはや恒例行事だ。
じいちゃんは、自慢の婿さんだと鼻高々。主任のことを大層気に入っている。
貢ぎ物をありがたく使わせてもらって私が作るおつまみを肴に、主任と晩酌をしているじいちゃんはとてもうれしそうだ。
その姿を見るたびに、これでよかったのだと思う気持ちと、嘘をついている罪悪感に苛まれて胸が苦しくなる。
嘘がこんなに苦しいものだと、私は知らなかった。
楽しそうに笑っているじいちゃんと主任を見ていると、これが本当だったらいいのになといつも思う。
本当に彼が婚約者ならーー。
そんなこと、私に許されるはずはないのに。