AKANE

3話 復活祭


「アカネ様、起きて下さい。もうすっかりお日様は昇っていますよ? ほらほら、目覚めのティーを入れました。召し上がってください。目覚めにはプッカブの葉が一番です」
という、早朝一番のエメの声が聞こえた気がする。
 でも、眠い目をこすりながら部屋を見渡してみても、ここにはあの明るいエメの姿はどこにもない。
 毎日飲んでいたエメのティーが無性に飲みたくなる。エメのハーブティーは朱音の心の拠り所の一つだった。

「わたし、王都からずっと離れたロージ村という田舎からから出稼ぎに来ているんです。わたしのハーブの知識は祖母から教わった宝物なのよ」
と、朱音がどうしてエメはハーブに詳しいのか、と聞いたときに嬉しそうに話してくれた。


 もうこのルシファーの城にきてから一週間以上は経った頃だろうか。既に日にちの感覚はなく、毎日のほとんどをこのベッドで過ごしていた。
 寝ている間に給仕が食事を運んで来てくれたのだろうが、不貞寝の多い朱音に諦めて、もう起こそうとする努力もしなくなった。
 テーブルの上にすっかり冷めた朝食が載っている。
 ノックの音がするが、朱音は見向きもせず、じっと窓の外を眺めていた。遠くに城壁が見え、そこまでは美しい芝が広がり、整えられた道には城で働く者や王都からやって来た者が忙しく行き来する姿が小さく見えている。それに、城の敷地内ではいつもよりもどこか慌しく、何かを組み立てる者や、あれこれと従者に指示をしている者、黒い巨大な国旗を乗せた荷車を引っ張る者など姿が目立つ。今日は何か城で開催されるらしい。

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