crocus

小石とマキオ


            ***


「うわ!つめて!」

「琢磨ー!川の中にガラス片とかないか気をつけなよー?」

夕日に照らされてキラキラ光る水面をバシャバシャ音をたてながら歩けば、いくつも波紋が広がる。

キャッチボール中に調子に乗ったせいでボールは健太の背を遥かに高く超え、川の中に鈍い音を立てて落ちた。

というか実のところ…わざとやっていたりする。

小学生最後の夏休みもお盆を過ぎ、「宿題」という言葉がアサガオのツルのようにどんどん伸びて体に絡まりついてくるのを感じる近頃。

そんなしがらみにも負けずに外に繰り出せば、今度は猛暑が容赦なく体力を奪っていく。

そんな中、冷たい川に足だけでもつければシャキっと生き返る。シュクダイツルが巻きついた体には、花の気持ちがよく分かる気がする。

本当は川の中に寝そべりたいのだけど、四六時中涼しい顔をしている健太に怒られる。

やれ洗濯が大変だ、やれ水質がどうだと口うるさく川岸のギリギリに立って大声で言うのだ。

今もそう。短パン半ズボンなのに品の良さを感じさせるメガネの少年が心配そうにこちらを見ていた。

健太が川に寝そべらないのは、あんないい服を着ているせいでもあると思う。

兄貴のお下がりでくたくたのタンクトップを着ていている自分は、川の冷たさを知れる環境で育ってよかったと思うようにしている。

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