君に届くまで~夏空にかけた、夢~

彼女の涙

朝から蝉がぎゃんぎゃん鳴きわめいていた。


一夜明けて冷静になったおれは、蝉の鳴き声と一緒に頭を抱えていた。


今日から2学期が始まる。


困ったぞ。


「……どんな面して会えばいいんだ」


ここは何事もなかったように平然とすべきか。


いや、待てよ。


でも、あまりにもケロッとしていたら、逆に不自然で失礼にあたるだろうか。


少しは申し訳なさげに控えめにした方がいいのか。


「でもなあ……」


あからさまにそういう態度をとれば、ギクシャクしてしまうかもしれないし。


悶々としながらスポーツバッグを背負い、寮を出る。


夏休み中は毎日ユニフォームとジャージだったせいか、制服のワイシャツが窮屈に感じた。


朝から強烈な日差しが照りつける。


「ああ……参ったなー」


告白……されたのは初めてだったから、まして、鞠子とは顔を合わせないわけにはいかないから、悩む。


いざ冷静になって、どんな顔をしてどんな態度をすればいいのか、これが問題になった。


「おはよー! 久しぶりー!」


「なになになに! 超日焼けしたくない?」


「あれ? ちょっと太った?」


「ひっどー!」


やかましいわい。


おれは今、悩んでいるのだ。


だまれ、小娘ども。


と、朝からキャンキャンはしゃぎながら校舎に向かって行く女子生徒たちを、キッと睨んでみる。


校舎と寮は隣接しているため、寮の前を登校してきた生徒たちがにぎやかに通って行く。


「……いいね、みんな、平和っすね」


ふう、と溜息を落として、その流れに乗るように歩き出したおれの肩を、


「修司!」


追いかけて来た誉が叩いた。


「待てって! 修司!」


「あ?」


振り向くと誉が横に並んで「大丈夫か」と小首を傾げた。

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