誇り高き

役目と責任

「紅河、お前は監察方及び隊長補佐をしてもらう」



山崎との勝負が終わり、暫くした後。

紅河の役職が、発表された。

「主に、どのようなことをするんだ?」

「監察方は隊士達の様子を見ること。怪しい者がいたら、直ぐに報告しろ。隊長補佐は、その言葉のままだ。一応伍長はいるが、幹部に比べ頼りない。そこを上手く補え」

紅河は、僅かに右の口端を吊り上げる。

「その様な重要な役目。信用のおけない奴に任せて良いのか?」

「問題ない」

土方はきっぱりと言い切った。

「何故」

「俺の勘がそう言っている」

「…………」

「これが外れた試しはない」

「………覚えておこう」

妙に自信たっぷりな土方。

紅河はかなり冷めた目で見ていた。

「紅河君。私から少し良いかね」

彼女は、返答をしなかったものの拒否することもしなかったので、肯定と捉えて近藤は続ける。

「申し訳無いんだが、ここでは男装をして欲しい」

「最初からそのつもりだ。構わない」

「よし。では今晩は紅河君の歓迎会だ!


「おい、酒の準備するぞ」

「酒だ酒だ」

「今日はご馳走だ」

酒で一気に盛り上がる三馬鹿達。

「……歓迎…?」

ぽつんと紅河ぎ呟く。

その頭を山崎がくしゃりと撫でた。

「あぁ。俺達は……ちゃうわ。わい達はお前を歓迎するで」

紅河の瞼が細かく震える。

ぎゅっと強く目を閉じて、再び目を開くと、彼女の顔には無邪気な笑みが浮かんでいた。

「それは…嬉しいことだな…」

子供のような明るい笑顔。

皆が一瞬で目を奪われた。

「……そんなに見るな」

流石に皆に見られて恥ずかしくなった紅河は顔を背ける。

「えー、隠さなくても良いじゃ無いですか!」

沖田が振り向かせようと手を伸ばす。

その手を山崎がぱしんと叩いた。

「痛いですよ、山崎さん」

「そりゃそうですわ」

「別に良いじゃないですか!減るもんじゃありませんし」

どうやら山崎は、紅河が触られるのが気に食わなかったらしい。

対する沖田もむくれている。

「良いわけないやろ」

「何でですか?てか、山崎さん東言葉も喋れるんですか」

「は?何故?」

「さっき俺達って言ってましたよね。それでわざわざ言い直してましたし」

「…………」

沖田は、意外にも目の付け所が鋭い。

これまでに、幹部の中で間者を見つけたのは沖田が一番多かったりもするのだ。

「で、どうなんですか?」

「………確かに、東言葉は喋れる。だが、俺はここにいる限りは大阪弁を話す」

「何故です?」

「それ以上は聞いてくれるな、沖田」

頃合いを見て、紅河が口を挟んだ。

「我々にも、事情はある。方言くらいで気にすることでもあるまいよ」

「そういう、ものですか」

「納得はしなくて良い。ただ、深入りはするな」

いつの間にか、部屋の中は静まり返っていた。

紅河も、話は終わったと黙っている。

「では、私達はそろそろ失礼としよう」

近藤は立つと、紅河に笑いかけて部屋を出て行く。

それに続いて他の人も次々と出て行った。

最後に山南が、出て行きかけに振り返る。

「先程君は、そんな重要な役目を自分に任せて良いのかと聞いたね。彼、土方君は勘と答えたけど、ちゃんとした理由があるんだよ」

「……私は、今だ怪しいだろう。だから監察方にでも監視をさせようと思った。けれど、どうせ私にはばれてしまう。ならば、信用の置ける幹部に始終張り付かせればいい。だから、だろう」

山南は暫く紅河を見つめ、溜息を一つついた。

「やはり、蜻蛉の名は伊達じゃないね。確かにそう言う理由もある。けれど、それだけじゃ無いんだ」

紅河は黙って先を促す。

「これはね、土方君の優しさなんだ。重要な役目には、責任が付き物だろう。それも、重い責任がね。彼はね、それを君をここにいさせるための重しにしたんだ。勿論、監察方にしたのも同じ理由。君を信用しようとする気持ちなんだよ」

「随分とわかりにくい」

「ははっ、彼は不器用だからね。……これは私から、いや皆からの言葉だと受け取ってくれ」




「君は私達の仲間だ」

では、失礼するよ。

彼もまた、紅河に笑いかけて出て行く。

静まり返った部屋で紅河は丁寧に頭を下げた。

ある人がいた場所へ向かって。

再び顔を上げた紅河の瞳には。

それまでは無かった、強い光が浮かんでいた。






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